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       柔軟な発想が生んだ美味     

     湖南料理の原点「彭園」

北京・上海・広東・四川・湖南を中華五大菜(料理)という。それぞれに特色がある。最近では、その区別が薄れてきた。海鮮の食材が多い広東料理店でも、客のリクエストによっては、北京ダックも出す。そうしたなかで、台湾で人気があるのは湖南菜。これはもともと味の濃い地方料理。これを改良し、オリジナルを加えて多くのファンを生んだのは、やはり「湖南料理の父」といわれる彭長貴氏(83)だ。彭氏のストーリーが、湖南菜の物語でもある。  

「蜜汁火腿」の発明者

彭董事長(会長)は悠悠自適中だが、本店の「彭園湘菜館」は子息の彭鉄誠氏(48)が総経理(社長)として、取り仕切っている。台北はじめ台中まで七つのチェーン店がある。フランスの高級レストラン並みの雰囲気、清潔感と豪華が同居しているような「彭園」だ。鉄誠氏によると、彭長貴氏は13歳の時、中華民国の初代行政院長(首相)の譚延   の「譚厨」に入った。これが湖南菜との出会いだったというから運命は不思議だ。譚氏は湖南省の出身。父は両江総督という清朝の高官であり、譚氏自身「科挙」に合格した名門のエリート。蒋介石に見出されて、1928年(昭和3年)行政院長になった。

  この譚氏が大グルメ人。政客が多く集まる譚家には「譚厨」と呼ばれる料理場があった。ここで彭氏は鍛えられた。1930年、譚氏は美食による肥満と中風のため亡くなったが、この譚氏が「美味いもの食べたい」といって、いろいろな食材をつかって、オリジナル料理を開発させた。こうしたなかで彭氏は成長していった。彭氏の料理に対する姿勢は柔軟である。例えば現在、湖南料理の代表的なディッシュとなっている「蜜汁火腿」がある。もともと彭氏の友人が「金華猪」というブタからハムをつくって、彭氏に売りに来ていた。富貴ハムといわれる上質なハムだが、真中の部分をつかい、まわりは使われなかった。この使われなかった脂身のある部分を蜂蜜で煮て、柔らかいパンに挟んで出した。センスにあふれた一皿だった。

  蜜汁火腿を出したところは、蒋介石氏主催の「国宴」(国家の宴会)である。そのころアメリカ第7艦隊の司令官や幕僚たちは、この珍味をうなりながら食べた、というほど好評だった。いまでこそ、台湾では珍しくないが「銀絲巻」といわれる中国式の小型のパンがある。中味は糸状の麺線である。もともと、大型で長かった。これを一口か二口で、口に入る小型化にした。さらに蒸した銀絲巻ばかりでなく、油で揚げたものをつくった。これもまた外国人ばかりでなく、中国人からも歓迎され、広く行き渡った。

 

サラダから発想「生菜蝦鬆」

蒋介石氏1975年の死去後、彭氏は渡米し、ニューヨークで湖南料理店を開いた。ヘンリー・キッシンジャー氏(元国務長官)も常連の一人。彼の宣伝によって、多くの有名人が改良湖南料理を味わうことになる。

  ここで開発したのが「生菜蝦鬆」(レタスに刻んだエビを包んで食べる料理)だ。ヒントはアメリカ人が「サラダはないの?」という注文が多かったからだ。中華料理のレパートリーは、生野菜をそのまま出す習慣はない。生野菜でカネをもらうのはどうも気が引ける。そこで、レタスにエビを包んだのである。これが受けに受けて、湖南菜のスタンダードになったから面白い。客とともにつくった珍品である。

  エピソードに富んだ料理もある。「叫化子鶏」(乞食ドリ)といわれる逸品がある。乞食は鍋釜など食器を持っていない。そこで盗んだか、拾ったニワトリの毛を蒸しって、粘土で固め、タキ火に入れて焼いて食べた、という笑話がある。これをヒントに、ニワトリの鶏冠(とさか)や脚をとり、多くの薬味を加え、粘土で固めて焼くのである。これがすこぶる美味。いまや有名料理のひとつだ。こうして彭長貴氏に育てられたコックたちは、いまや第三代、第四代、第五代と育ち、各地で湖南料理を広げていった。

 

単な料理ほど難しい

第一線から離れた彭氏は、入り口に近い店の一隅に坐り、料理を食べている客たちを見るのが好きだった。ある日、簡単な豆腐料理が食べたくなった。そこで材料を教え、作り方を指示した。豆腐千切りのブタ肉、大蒜、干し豆腐のみじん切り、醤油、卵を加えて炒めた料理を白いご飯にかけたものだった。これは文句なしに美味しい。彭老人はよく食べていた。ところが、ある常連客はそれを目にした。 

「あれは何という料理だ。メニューに載ってないじゃないか。あれが食べたい」「あれは彭老板(主人)の食べている料理なんですが、とてもシンプルなものです。それでもいいですか」「美味しそうじゃないか、ぜひ食べたい」これが彭老板豆腐、つまり「彭家豆腐」である。240元という安い料理だが、これを白いご飯にかけて食べると、バッグンに食が進む。たちまち「彭園」の名物料理のひとつになった。彭総経理はいう。「本当のところ、簡単な料理ほどむずかしいのです。これを美味しく作るのが、コックのうでの見せ所です」そして、メモ帳に「万宗不離基本」と書いてくれた。すべて基本が大事というのである。そして客に美味しい料理を差し上げる、という根元の姿勢がない限り、一流の料理できない、という。父の彭さんは「譚厨」で基本を叩き込まれ、さらに新たな味に挑戦した。塩っ辛く、ピリッとした辛さの地方料理を世界の人に合う料理にまで発展させたのである。

 

 

 

 

 

 

火考大鴨(北京ダック)料理へのこだわりから「彭園」は中国の代表料理「北京ダック」も自慢料理としている。5、6人前で1200元。残りの肉を炒めたり、骨はスープにという三品料理が食べられる。

醤爆駝龍蟹(駝龍蟹という蟹を蒸してから揚げ、甘辛ソース〈テンメンチャン〉と炒めた料理)400元。大宴会場の以外に、人数によってデラックス・ルームもあり、政治家や芸能界の人たちのプライベート・パーティーによく使われている。総経理の彭鉄誠さんは湖南料理のエピソードたっぷり語った。

小砂鍋大排翅    (フカヒレ)1200元。炸銀絲巻 (中国式の揚げパン)80元。彭家豆腐(彭園特製豆腐料理)240元。椒塩田鶏腿(カエルの足の塩胡椒炒め)720元。泡菜肉末(野菜の漬け物とひき肉炒め)240元。芝麻蝦球(蝦揚げのマヨネーズと胡麻炒め)480元。
 
 

 

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