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新竹県の山中に北埔(ペップウ)という小さな町がある。ここは客家(ハッカ)系民族が多く住み、町を歩けばあちこちから客家語の会話が聞こえ、客家文化が色濃く感じられる町だ。
今から100年前の1907(明治40)年11月、北埔で後に『北埔事件』と呼ばれる大規模な抗日事件が起こった。日本による統治に反感を持った客家人の蔡清琳がリーダーとなり、新竹や苗栗の客家系住民に連携を呼びかけ、さらに山地の先住民であるサイシヤット族も加わって北埔に住む日本人を襲撃し殺害した。日本の当局はすぐさま鎮圧に乗り出し、事件に関与した台湾人を捕らえ、処刑した。
北埔の市街地から南へ、五指山の森の中に、北埔事件に関する二つの碑がある。一つは、北埔事件の首謀者らが処刑された「深[土歴]刑場」と呼ばれる場所で、いくつかの石が並べられ、線香がお供えされている。もう一つは、そこから数100メートル歩いたところにある、5本指の手の形をした「五子碑」で、北埔事件で殺害された日本人児童5人を祀っている。
同事件を研究している劉淑鑾さんは、「遠くからやってきた日本人が殺されたことは、心が痛い。サイシヤット族の人々が殺されたのは、もっと心が痛い。客家人が殺されたのは、客家人の一人としてもっともっと悲しくて心が痛い」と述べ、悪かったのは日本人の民族性ではなく、「人の和」を考慮しなかった当時の強権的な統治にあったと指摘している。
北埔事件から100年が経ち、劉さんはこの事件を語り継ぐ重要性を訴えるとともに、客家人は忠誠を尽くして正義を貫き、頑固一徹の精神で郷土を愛し、サイシヤット族は勇士勇敢に郷土を守る精神を持ち、日本人は謙虚で礼儀を重んじ、無私の心を持つように、各民族がそれぞれのよき伝統を継承し、尊重しあうことを呼びかけている。
北埔事件100周年を記念して、台湾の客家テレビ(Hakka TV)は栄興客家採茶劇団が演じる客家語歌劇『碧血芙蓉』を、4月より平日の午後6時半から毎日放送している。タイトルの『碧血芙蓉』の芙蓉は、五指山に咲く台湾特有の山芙蓉花から来ている。
この歌劇は、全編が客家語で演じられ、客家の伝統的な節回しの歌に合わせてストーリーが展開されていく。歌劇の中のストーリーはフィクションであるが、登場人物は実在した人物をもとにしており、劇中では、抗日事件の首謀者である蔡清琳が日本語に精通し、弁護士事務所で通訳を勤め、九州庵食堂のおかみである日本人の諸崗登志に恋するなど、北埔事件に至るまでの蔡清琳の人間性を主に描いている。
劇中では、蔡清琳と諸崗登志を取り合う橋本弁護士や、太平学堂を開設して子供たちに教育を施した敬虔なキリスト教徒である宮川保之などの日本人も登場し、日本統治時代の台湾の歴史の一面が感じられる。
歌劇といえば、歌を聴くだけでも楽しいものだが、肝心の歌詞が何を言っているのかわかりにくいものだ。特に客家語であれば、日本人にとってはとっつきにくいかもしれない。だが、客家テレビの『碧血芙蓉』は、漢文の字幕があるので逆にわかりやすい。
『碧血芙蓉』は、日本統治時代の台湾で起こった日本人がすっかり忘れてしまっている北埔事件を、客家人の視点で描いたものだ。台湾の歴史に根ざした新しい客家語文化の創造という点で、『碧血芙蓉』のような客家語歌劇の試みは興味深いものがある。
同番組は、客家テレビのホームページからも見ることができる。(http://www.hakkatv.org.tw/hakka1/video.htm)
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