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取材・文 編集部

日本人映画監督である小出正雪さんが、台湾を舞台にして夢を追う若い女性を描いた短編映画を撮った。自らの夢を紡ぐようにしてメガホンを取った自信作で、11月下旬以降から台北など6都市の映画館10館で公開される。台湾に魅せられて吸い寄せられるようにして来て、ここを活動の拠点としている日本人は珍しくないが、一定の成果を出せる人間はわずかであるといってもいい。そんな厳しい環境のなか、小出さんは大きな一歩を踏み出した。




長編映画とセットと なった短篇映画上映

 
上映されるのは、短編映画『とべないとり(中国語名・不能飛的鳥)』(25分)と、日本で撮影した小出監督作品の長編映画『ふるり(同・不思議天使)』(91分)の2本。

『とべないとり』は、若い女性が絵本画家として夢をかなえていく物語で、今売り出し中の若手女優である張釣甯(チャン・チュンニン)がこの女性役を務めている。撮影スタッフ、出演者のすべては台湾人で、監督だけが日本人の小出さんという、これまでにない新たな映画制作スタイルである点も注目される。

同時上映される『ふるり』は2005年に韓国のプチョン・ファンタスティック映画祭招待作品で、同映画祭で観客動員1位となった。今回は100分の作品を9分カットした再編集編を上映する。

両作品は別々に制作されたものだが、上映の際には関連性を持たせる工夫がなされている。『とべないとり』終了後、絵本の表紙が映し出される。そこには『とべないとり』の主人公の処女作のタイトルである「FLEURI」(フランス語)の文字。女性の手がその表紙を開くと、白い光が満ちてきて映画『ふるり』がスタートするという趣向である。つまり前半の短篇が後半の長編作品の物語に通じているという訳だ。

「短篇の構想は以前からあり、日本で作ろうと思っていたのですが、台湾でいろんな人々との結び付きがあって実現することができました」と小出さんは話す。台湾との繋がりは、どのように始まったものだろうか。

焼肉屋「乾杯」の経営者との 出会いが台湾とのきっかけに


話は8年前まで遡る。アニメ制作会社を退職していた小出さんは2001年3月、ロンドンに旅行中、台北で焼肉屋「乾杯」を経営する平出荘司さんと知り合う。台湾について全く無知だった小出さんに、平出さんは台湾の面白さを熱っぽく語った。「当時は、台湾と香港の区別もつかないような状態でした」と小出さんは言う。そのときの印象は強烈で、平出さんに導かれるように小出さんは台北にやって来た。

そこで小出さんが目の当りにしたのは、焼肉屋「乾杯」の熱気と活気だった。スタッフと客が一体化したかのような雰囲気に圧倒された。
「映画を撮りませんか」。思いがけない提案を平出さんから受けたのは、それから間もなくのことだった。そしてその5カ月後、小出さんの初監督映画である『乾杯』がクランクインしたのである。

映画『乾杯』は、田舎から出てきた青年が都会に馴染めず、さまざまな出来事を体験していくうちに心を開いていくという青春物語。乾杯の店員を役者にして映画を撮った。この映画は2003年インディーズムービーフェスティバルで見事、準グランプリを受賞した。

これがきっかけだった。小出さんは「台湾をからめた映画を作りたい」と思うようになる。早速、同年に台湾で映画『二月的故事』を制作した。その際、現在、台湾で活躍する日本人俳優の米七偶(みちお)さんと知り合った。

「映画『乾杯』を見せられたんです。見た感じ小出さんは実に怪しげでしたが、映像のシャープさには驚きました」と、米七偶さんは当時を振り返る。そして『二月的故事』は、米七偶さんが通訳や人集めなどで全面的な協力をして完成した。

映画を台湾で撮るさま ざまなメリットを実感


そして、小出さんはいったん日本に活動の場を移して、映画『ふるり』を制作した。その間、さまざまな人に台湾の面白さ、素晴らしさを語り掛け、台湾好きにさせたという。そのなかの2人は現在、台湾に住んでいるというから、相当な熱の入れようである。

『ふるり』の制作終了後は、映画プロデューサーとして日本で2本の映画制作に携わった。そのうちの1本『アディクトの優劣感』では、冒頭と終わりのシーン以外は、すべて台湾で撮った。設定はあくまで日本なのだが、台湾撮影分も違和感がなかったという。「当初は中国語の看板を日本語に変えて、日本らしく見せようと考えたのですが、その必要はありませんでした」と小出さん。

例えば、台北市の建国北路の高架を下から撮影して、東京・青山の国道246号沿いであると説明しても、だれもが納得したという。小出さんは「映画の力」という。日本と台湾の街並みや風景が似ていることを実感した。台湾で撮影した理由は、費用が日本の半分以下で済むことだった。台湾で撮った短編の『とべないとり』は製作費等1500万円だったが、日本で撮影した場合、3500万円ほど必要だという。

高水準な照明や 撮影の技術レベル


 小出さんは次第に台湾で撮影するメリットを考えるようになった。低予算ばかりではない。照明や撮影の技術レベルが高水準である点も大きい。台湾のレベルは日本の平均値より高いのである。さらに撮影地のロケーションも集中している。

『とべないとり』の撮影はわずか8日間。そのうち花蓮で撮った図書館、主人公の実家、駅、列車のシーンは、たった2日半しかかからなかった。日本ではこうはいかないという。『とべないとり』は、このような背景から実現したのである。
しかし実際に台湾人スタッフとの撮影は容易ではなかった。監督の意図を伝える際、障害になるのは言葉の問題だけではない。日本人と台湾人の感覚の違いも見逃せない。 

一般的にいって、日本人監督が台湾で映画を撮る場合、現地の映画制作に通じたコーディネーターや台湾側スタッフを監督に付けることがほとんど。言葉の問題だけでなく、監督人1人だけで対応するのは難しい。

小出さんは「例えば、私がカメラマンにこうしたいと言っても、日本のように黙って従うことはありません、別のやり方があると返してくることがある。自己主張が激しいです。そっちの提案がいい場合もあるんです。そのときはそれに従います。役者との関係でもそれは同じです」と柔軟な姿勢を見せる。

それだけに米七偶さんは「そんなストレスに耐えられなくて、台湾に来て3日で胃に穴が開いて帰ってしまう日本人監督のケースは多いが、小出さんは1人でもやれる」と、太鼓判を押す。

次の目標は長編 映画の台湾制作



そのような台湾の映画制作事情を把握している小出さんにとって、次の目標はなんといっても長編映画である。

「台湾にいる日本人と台湾人の話とか、日本人だけや台湾人だけとか、いろんなパターンがあると思います、言葉もさまざまな組み合わせが考えられます」と小出さん。次作にかける小出さんの夢は大きく広がっている。



【略歴】小出正雪(こいでまさゆき) 1971年静岡生まれ。大学卒業後、アニメーション制作会社サンライズに入社。27歳のとき、フジテレビの深夜ドラマで監督デビュー。その後、台湾で映画『乾杯』、『二月的故事』を監督。2005年、全編日本ロケ作品の映画『ふるり』を監督。他に『アディクトの優劣感』、『レイ、初めての呼吸』をプロデュース。2009年、台湾人スタッフだけで台湾で短編映画『とべないとり』を監督。



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